LIFE LOG(ここにはあなたのブログ名)

タクシーで社会復帰できた元高齢ニートのブログ

首吊り10秒前くらいのギリギリのところですんなり社会復帰できました。

Googleマップはタクシー運転手の専門スキルを過去のものにした

第一志望大学の入試前日、僕は遭難した。
歩けども歩けども目的地にたどり着けない。
EZナビウォークがお寺の壁をよじ登らせるデタラメなルートを新たに示したとき、歩き始めてからすでに3時間が経過していた。


生まれついての方向音痴は自覚していた。
だからこそ、僕は実家から電車を乗り継ぎ、わざわざ試験会場の下見に出向いたのだ。
それなのにこのざまである。


悪戦苦闘の末、名も知らぬ地下鉄駅の入口が目の前に現れたところで僕はギブアップ。
そのまま帰宅することにした。

「大学どころか幼稚園からやり直したほうがいいかもしれない」

二月の寒空の下、僕は汗びっしょりでうなだれた。


結局、入試当日は駅から他の受験生たちのケツについて行った。
真っ直ぐの道をほんの3分歩いただけで会場に到着し、情けなくなったのをよく覚えている。
試験には落ちた。


携帯といえばガラケーだった時代。
スマホ利用者がまだ好機の視線に晒されていた頃の苦い記憶である。


まさか、こんな自分がタクシー運転手になるとは夢にも思っていなかった。
車が通行できる道なら全てを知り尽くしている人々、タクシー運転手に対してそんなイメージを抱いていたからだ。
脳内のコンパスが回転しっぱなしの僕にとって、彼らは立派な超能力者だった。


カーナビはあてにならないとベテランドライバーは口を揃える。
提示ルートが最短距離とは到底言い難く、下手すると料金が数百円余計にかかってしまうのだ。
だから、新人研修で指導員はこう助言する。

お客様に道を訊きなさい。

ボロボロになるまで地図を読み込みなさい。

一朝一夕にはいかないというわけだ。
都内の道をマスターするには3年かかるなんて話もある。
3年……過少に見積もっても総走行距離は7万キロに達するだろう。
そうしてようやく身に付くノウハウは、超能力は言い過ぎにしても立派な専門スキルだ。


方向音痴の僕はさぞかし経路設計に苦労していると思われるだろう。
だが、実際のところ全く困っていない。
それどころか、見知らぬ土地のお客さんから「若いのにこの道を知ってるなんて」と称賛されることもしばしば。
なんの訓練も努力もせずに僕は都内を走り回っている。


全てはGoogleマップのおかげだ。
このアプリのナビ機能はタクシー運転手の専門スキルを過去のものにした。


タクシー運転手が一般的なカーナビに使い勝手の悪さを感じる点は多い。

  • 最短距離のルートを提示できない
  • ルートのバリエーションに乏しい
  • 所要時間や距離の推定があまりにアバウト
  • リアルタイムの道路状況を把握できない、できたとしても精度が悪い
  • 名称検索で出てくる施設が少ない
  • 出入口の場所まで把握されている建物がほとんどない
  • 地図上の道路が『通り名』で表記されない
  • 注意深く地図を見ないとバス通りがどこか分からない
  • 時間帯規制中の道路もルートに組み込む
  • 交差点名で検索できない


ざっと思いつくだけでこれほどある。
はっきり言って、この仕事で使えるようなシロモノではない。


だが、Googleマップはこれらの問題点を全て克服している。
必ず最短距離ルートが分かるし、そこらへんのアパートの名前ですら検索で出てきてくれる。


なにより素晴らしいのが柔軟さ。
目的地を入力した時点で複数ルートとそれぞれの距離・所要時間の違いがわかるのはもちろんのこと、走行中でもそうした情報が新たに提示されるのだ。
いちいち操作し直す必要はない。
それらの情報は要所要所で自動的にマップに反映される。


至れり尽くせりだ。
まるでGoogleマップがタクシー運転手のために開発されたかのような気さえしてくる。


正直言って、不満がないわけではない。

  • まさにこれから出発というとき自分の位置情報がよく狂う
  • 高速道路を走行中、一般道上の案内ルートに突然切り替わる(※京橋付近で頻出の現象)
  • 一般道を走行中、高速道路上の案内ルートに突然切り替わる(※上大崎付近で頻出の現象)
  • 高速道路を走行中、降りる予定の出口が勝手に変わっている


ただ、それでも仕事をやっていくうえで全く困らない。
右も左も分からぬ新人タクシードライバーにベテラン並みかそれ以上の技能を授けてくれる。
Googleマップ恐るべし。


病的な方向音痴の僕はGoogleマップに感謝しきりだ。
大げさではなく、毎日、毎分、毎秒助けられている。
無料で利用できることが信じられないくらいだ。
毎月1万円くらいならこのアプリのために喜んで払ってもいい。


そんな僕だが、タクシー需要予測技術の発展には戦々恐々としている。

この仕事は完全歩合制なので稼ぎの面では不安定だ。
それゆえに業界全体が人手不足で、運転手に辞められたくない会社側はあまり無茶を言ってこない。
リスクプレミアムが付与されているからこそ、僕らはお気楽に働けているという面もあるのだ。
ビッグデータ解析なんかで売上の差異がなくなる未来が到来したら……ゾッとする。
怠け者の楽園の崩壊が訪れないことを願うばかりだ。



タクシー豆知識。
Googleマップを使って東京都のタクシー料金を予測することもできる。

"1km×460円"

これだけ。
お客さんを乗せているときに、せっかちな僕はこの式を使って必ず運賃を計算するのだが、誤差は結構少ない。
ただし、目的地までの距離が2㎞未満だとズレが大きくなる。
ちなみに、10㎞以上の場合は計算結果からマイナス460円するくらいがちょうどいい。

タクシーに乗る前にあらかじめ自分の財布と相談したい場合はこの計算をぜひ試してみてほしい。